ポンタの想い出

俺に明日はあるのか?

時計仕掛けのりんご

首相暗殺、自衛隊テロ、美少女ロボ妊娠、実は手塚治虫はヤバい

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手塚治虫文庫全集」全200巻がついに電子書籍化のニュースが流れた。毎月20冊、10ヶ月をかけて配信していく。
おおお!と喜ぶと同時に、でも「手塚治虫文庫全集」(講談社)は案外高い。
紙の本とほぼ同じ値段で、一冊800円ぐらいしちゃうのだ。
うむむーと躊躇しちゃう人にオススメは、手塚プロダクション版。
一冊あたりのページ数が違うので単純に比較できない。
が、手塚プロダクション版はほぼ毎月数冊ずつ99円セールを実施しているのだ。
少しずつ買っていこうという人は、こちらがお得だ。

『時計仕掛けのりんご』(手塚治虫手塚プロダクション

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いま99円セール中の手塚治虫は『時計仕掛けのりんご』『奇子1』『MW1』。

まず一冊って人には、短篇集『時計仕掛けのりんご』。
プレイコミック』『週刊ポスト』『漫画サンデー』『ヤングコミック』に掲載された8編が収録されている。
大人向けの雑誌掲載だけあって、ハードな政治ネタ、お色気あり。
実は手塚治虫はけっこうヤバい。読み応えがある。


自衛隊をはっきり軍隊と言い切る首相の暗殺計画

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収録作で一番の問題作は「悪魔の開幕」。
丹波首相は 自衛隊をはっきり軍隊といいきり……国民のすべての反対をおしきって憲法を改正してしまった”
安倍晋三首相が自衛隊を「我が軍」と言い官房長官がそれを肯定するニュースを思えば、今の日本か、これは!
というような予言的作品で、しかも、描かれるのは首相暗殺計画だ。
都立劇場でバレエ鑑賞するシャンデリアを使った首相暗殺の派手な演出、捻りの効いた展開、ラスト1ページの衝撃。
作品が発表されたのが1973年だとは思えないビビットな傑作。
朝日以外の新聞が届かなくなる

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表題作「時計仕掛けのりんご」は、自衛隊のテロ事件を描く。
長野県天竜川中流近くの稲武市が舞台。
朝日以外の新聞が届かなくなり、テレビもラジオも雑音だけ。
車も一台も入ってこないうえに、道路工事で外にも出れない。
しかも、閉鎖された道路の向こうに自衛隊の新鋭戦車がちらっと見えたという噂。
だが、主人公以外の人々は疑問を持たない。
“だれもかれも目はウツロで……なにごとにも興味を示さず……ノラリクラリとうろついていた”
陸の孤島と化した地方都市を舞台に、自衛隊の反乱を描くハードな展開にゾクゾクする。

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美少女ロボットの結婚、妊娠……

「おれは笑いたくなるような気持だ。なぜっておれは絶対に死なない保証がついているからさ」
五分後に銃殺される男の奇妙な独白からはじまり皮肉なオチへと突き進む短編「処刑は3時におわった」。

「ほんとうに化粧したのか? 信じられん……!! ロボットでも化粧するのか?」
美少女ロボットと人間の結婚、暴力と復讐、社会と奇跡。
さまざまなテーマが凝縮された傑作「聖女懐妊」。

一億円強奪犯人がタクシー運転手に語りかける前半、無口だったタクシー運転手が語り始める後半、そしてラスト。
ストイックな状況設定の中の語りが渋い「バイパスの夜」。ラジオドラマで聞きたい。

医療奇譚であり恋愛ストーリーでもある「嚢」。
ベトナム帰還兵が小学生たちを人質に旧沖縄作戦本部海軍壕に立て籠もり「イエロー・ダスト」。
美女エイリアンがお色気で人間達に復讐する「帰還者」。

と、捨て短編なしの傑作ぞろい。
『時計仕掛けのりんご』大オススメです。



エキサイトレビュー 2015年06月03日より