肩は叩かないで
巨大企業が合理的な判断を積み重ねた結果没落していく理由
(シャープが存続の危機に陥っており、4692人もの人間が流出、そして東芝もまた時期を同じくして存続の危機を迎えている。この記事を再度トップにします)
日本を代表する企業が次々と凋落しており、今やその凋落を前に為す術がない状況に陥っている。
ソニー、シャープ、東芝。それぞれの企業は知名度もあり、技術革新をする力もあった。現在のアップルやグーグルと同じくらいの影響力を持つポジションに付いていてもおかしくなかったが、それが敵わなかった。
かつては尊敬されていた巨大企業であっても、凋落すると見る影もなく、組織が瓦解していく姿がここにある。いくら過去がすごくても、それだけで生き残れるとは限らないのである。
もちろん、これは日本の家電企業だけの問題ではない。
たとえば、マイクロソフトもいまだコンピュータ業界を支配する巨大企業だ。
しかし、時代がインターネットとスマートフォンに向いた結果、デスクトップOSを支配していた頃の影響力は徐々に失いつつある。
すでに、マイクロソフトからは、かつての傲慢なまでの存在感は急激に喪失している。
方向転換ができないまま捨て去られていく
コンピュータ業界は技術革新の激しいセクターである。企業は時流に乗るとあっという間に巨大企業になったと思うと、凋落するときは一気に崩壊が来る。
革新的な技術がどこかで生まれると、巨大企業のビジネスモデルは破綻して、方向転換ができないまま捨て去られていく。
生存環境が変わると、その巨大さが仇になって身動きできなくなるのである。
何十年も続いて来たビジネスモデルでも、時代が変わると成り立たなくなるというのは、コンピュータ業界だけではない。
たとえば、新聞会社もインターネットが登場してから首が絞まっていった業界のひとつだ。もう、「ニュース」というのは、紙の新聞で読むのではなく、インターネットで読むというのが当たり前になっている。
速報性もインターネットに劣り、網羅する記事も限られており、しかも1日経ったら紙は単なるゴミと化して資源の無駄遣いだと批判されるようになってしまった。
そのせいで、新聞社は売上を落とし、規模が維持できなくなり、身売りや廃業が相次ぐ「衰退産業」と化した。
この流れは、デパートや量販店にも襲いかかっている。ショッピング・ウィンドウは、もうとっくの前にネットサーフィンに取り変わっていて、人々はインターネットで買い物をするようになっている。
この傾向はさらに拡大していく。インターネットは既存の巨大企業のビジネスモデルをことごとく破壊していく。
「合理的な判断」を積み重ねた結果、没落する理由
何らかの革新が生まれるたびに、巨大企業は根幹から吹き飛んでいく。
これは、決して巨大企業にまともな人材がいないからではない。いないどころか、巨大企業は経営のプロが集まり、実行力と統治能力を持った人間が最善の判断で着々と物事を進めていく驚異の組織集団である。
巨大企業には人材が豊富にあり、資金も大量にあり、取れる作戦も無数にある。資金力がないからできることが限られてくる中小企業や個人とは対極にある。
それなのに、なぜ巨大企業は鈍重で、身動きができなくなり、時代に打ち捨てられ、衰退してしまうのか。
これを明らかにしたのがハーバード・ビジネス・スクール教授のクレイトン・クリステンセンだった。
クリステンセン氏は、優良な巨大企業が鈍重になってしまうのは、行き当たりばったりに経営したからではなく、むしろ「合理的な判断」を積み重ねた結果であると発表して人々を驚かせた。なぜ、そうなるのか。
(1)現在抱えている既存の顧客を満足させる必要がある。
(2)新しい動きは市場規模が小さくて参入できない。
(3)不確実性が高すぎて、巨大企業には冒険になる。
(4)今の事業がうまく行っているのでそれが優先される。
(5)需要に関係なく、今の事業に資源が投下される。
巨大企業は、それを支えるためのビジネスの根幹があるが、それを大事にしなければならないので、世の中が新しくなっても優先されるのは常に「今まで」のビジネスである。
新しい動きに賭ける価値があるのかどうかはマーケティングでは見えてこない。また、新しい技術に対応することによって、既存のビジネスに悪影響が及ぶ。
だから、参入が遅れて、気が付いたときはじり貧になってしまうのである。