オバマの役割
オバマ大統領は2013年9月10日のテレビ演説で、「米国は世界の警察官ではないとの考えに同意する」と宣言した。もうアメリカは世界が混乱しようがどうなろうが、知ったことではないと言ったも同然だった。
この当時、中東は2011年から始まった民主化運動の流れがシリアに波及しており、中東全域がめちゃくちゃになってしまっているところだった。
ここからイラク・シリア一帯は暴力の渦に巻き込まれてISISという狂気の暴力集団が誕生した。
そして、この暴力集団から逃れるためにシリアの人々が大量に難民化し、これがEUになだれ込んで、現在のEU各国の大混乱がある。
また、オバマ大統領が軍事的介入をしないと知って、中国は尖閣諸島や沖縄の侵略を推し進めていき、南沙諸島でも人口島を作って軍事拠点の設置を公然と進めている。
アメリカはもう世界の警察官の役割を降りて、アメリカの軍事の時代は終わり、軍産複合体は弱体化した存在のように見られるようになった。
しかし、それは見せかけだった可能性がある。
泣く子も黙るロッキード・マーティン社の成長
オバマ大統領が「米国は世界の警察官ではない」と宣言した2013年からの3年間、もう軍産複合体は必要なくなったと勘違いした人は多かったが、現実は逆になっている。
ますます軍産複合体に投資資金と革新的技術と人材が流入して凄まじいまでの充実を示したのである。
世界最大の軍事企業と言えば、泣く子も黙るロッキード・マーティン社である。
ロッキード・マーティンは、アメリカ政府と一心同体と化して軍事産業にひた走っているが、この企業は皮肉なことにオバマ大統領が「世界の警察官ではない」と宣言した2013年から株価はどんどん吊り上がっていった。
そして、今や史上空前の時価総額を達成して、株価も2013年初頭から見ると2倍を超える状況になっている。それでいて相場に過熱感もなく、バブルの兆候を示していない。
これは興味深い現象だ。オバマ大統領は平和主義で軍産複合体と対立しているという「表側の記事」とは裏腹に、世界最大の軍事企業はオバマ大統領の庇護の中で、この3年でさらに成長しているのだ。
ロッキード・マーティンは、戦闘機、偵察機、対潜哨戒機、輸送機、攻撃用ヘリコプターのほぼすべてを網羅し、その他にもロケット、人工衛星、ミサイルをも製造している。
最新鋭ステルス戦闘機F-22やF-35もロッキード・マーティンのものである。ロッキード・マーティンはこれらの航空機を通して、「航空支配」を行っている企業であると見ていい。
さらにマッハ6で移動できる軍用飛行機「SR-72」の開発にも傾注している。他の軍事企業を引き離してダントツのイノベーションを持つ。
こうした開発が実を結ぶと、アメリカはより軍事的優位に立つわけであり、軍産複合体が縮小しているとか窮地に落ちているというのはまったくの嘘である。
空、海、ミサイル。すべてアメリカが制している
アメリカが誇る軍事企業はロッキード・マーティンだけではない。現在、民間機の製造に軸足を移しているボーイングもまたアメリカの軍事企業の一角にある巨大企業である。
ボーイングもまた2013年から凄まじい勢いで株価が上昇しているのだが、ロッキード・マーティンに比べてやや見劣りするのは、この企業の軍事部門が全売上の31%程度であるからだ。
全売上の31%しか軍事部門がないのに、それでも世界第二位の規模を持つ軍事企業として君臨しているのは凄まじい。
しかし、ボーイングは民間部門が強いので、それが逆に成長の足を引っぱっていたということになる。逆に言えば、もっと軍事部門に傾注していれば、ロッキード・マーティンと同じほど時価総額が膨らんでいた可能性がある。
なぜ、そう言えるのか。
それは、100%軍事企業と言ってもいいレイセオン・カンパニーがやはりロッキード・マーティンと同じく、2013年から暴騰し続けて株価は2倍どころか3倍にまで吹き飛んでいったことからも分かる。
あるいは、航空機と共に潜水艦や軍艦に注力しているノースロップ・グラマンの株価もレイセオン・カンパニーと同じく株価は2013年に比べて3倍に膨れ上がっていた。
分かりやすく言えば、戦闘機を製造する世界最大のメーカーであるロッキード・マーティンも、ミサイルに特化したレイセオン・カンパニーも、軍艦・潜水艦を製造するノースロップ・グラマンも、みんな「アメリカは世界の警察官を降りて戦う気を失った」と言われた時期から、成長し、株価も急激な上昇を続けて今に至っているのである。
現在、アメリカの軍産複合体は、史上空前の時価総額を享受して最強の状態になっている。
誰もがアメリカの時代は終わって、これから中国が軍事的脅威になると言っていた2013年が、実はアメリカの軍事企業のさらなる成長期の始まりだったのだ。
オバマ大統領の雌伏の時代が終わろうとしている
このように見ると、オバマ大統領が軍産複合体と対立しており、軍産複合体の力を削ぐために動いているというストーリーは非常に怪しいものであることに気付く。
むしろ、オバマ大統領はブッシュ時代に手を広げすぎて予算が吹き飛んで利益が出せなくなった軍需産業のために、立ち直るための一時的な休息を与え、次に備えさせていたと見ることも可能だ。
軍需産業の体力を温存させ、「米国は世界の警察官ではない」と言いながら裏ではたっぷりと資金と開発費を与え、株価上昇の好循環を作り、オバマ政権は軍産複合体をすっかり立ち直らせた。
アメリカが内向きになっているとか、覇権を捨てているというのは、世間を騙すための方便であり、実際のところはそうやって世間を煙に巻いて、着々と軍産複合体の再構築に動いていたと邪推されてもおかしくない状況だ。
2006年以降は長引くアフガニスタン・イラクの泥沼の戦争でアメリカはすっかり覇気を失い、戦争反対の機運が高まり、厭戦気分はアメリカ中を覆い尽くしていた。
そこに2008年のリーマン・ショックがアメリカの金融を吹き飛ばしたので、アメリカは軍事をいったん引いて、形成を立て直し、軍事的な体力を温存する必要があった。
オバマ大統領は弱腰と批判され続けて来たが、軍産複合体にとっては逆に体制を立て直すに都合が良かったわけであり、むしろそのために弱腰に終始するオバマ大統領が軍産複合体のコマになっていたとさえ言える。
最近はもうアメリカの厭戦気分は消えつつある。
アメリカの軍産複合体のほとんどが株価上昇の機運に乗って絶好調になった2014年にはハリウッドの好戦洗脳映画である『アメリカン・スナイパー』も大ヒットした。(映画『アメリカン・スナイパー』でアメリカは再び変わった)
ハリウッドは、CIAや軍やNATOと密接に結びついて、ストーリーや撮影に協力しながら戦意高揚や世論操作や兵士リクルートをしているのは以前から指摘されている通りだ。
現在、「強いアメリカ」を標榜するドナルド・トランプ大統領候補が派手に大統領選を掻き回している。
一方で、世界最大の軍事企業ロッキード・マーティンから多額の献金を受けているヒラリー・クリントンが民主党候補の中で独走している。
オバマ大統領の雌伏の時代が終わろうとしている。今後、新大統領の下で、再び好戦的なアメリカが戻って来たとしても、誰も驚かないだろう。
もうアメリカの厭戦気分は消えつつある。今後、新大統領の下で、再び好戦的なアメリカが戻って来たとしても、誰も驚かないだろう。
DUAさんより