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卓球の女神


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15歳の卓球五輪代表・伊藤美誠
母の猛特訓と、規格外のメンタル


福原愛石川佳純に続き、3人目のリオ五輪女子卓球日本代表に選ばれた伊藤美誠。


ダブルス、シングルス両方でワールドツアー史上最年少優勝を果たし、世界に大きな衝撃を与えた15歳の少女は、どのように鍛えられてきたのか。そこには取材陣の想像を超えたエピソードがあった。



関西在住のライター城島充氏と新大阪駅で合流し、タクシーに揺られること10分ほど。マンションや商店が建ち並ぶ住宅街の一角に「関西卓球アカデミー」の入るビルはあった。日本生命卓球部、そして卓球女子日本代表の監督を務める村上恭和が2012年に開いたこの私塾が、伊藤美誠の練習拠点になっている。



伊藤のインタビューを行うのは昨年2月に刊行したNumber872号「ヒロインを探せ!」以来、約1年ぶり。前回は卓球に青春を捧げる少女たちの群像を描く「ピンポンガールズ!」の中の一人としてだったが、今回はリオ五輪での活躍が期待されるアスリートたちを追う新連載企画の第1弾。前回の取材時点では決して現実的でなかったリオの代表候補の座を、伊藤はみごとに掴んだのだ。



4月に行われるリオ五輪のアジア予選で、石川佳純福原愛が実力通りシングルスの出場枠2つを獲得すれば、日本に団体の出場枠も配分される見込みだ。世界ランキングで日本人3番手につける伊藤は、団体戦のメンバーとして五輪の舞台に立つことになる。


「14歳の時はダブルスって感じ」


現在15歳の伊藤は、1年前との違いをこんな言葉で表現した。


「14歳の時はダブルスって感じ。“みうみま”って感じでしたね。ダブルスがよければシングルスがダメ、シングルスがよければダブルスがダメっていうのが多かったんですけど、2015年は、韓国オープンだったらダブルスで優勝してシングルスは2位とか。そうやって、両方ともいい結果を出せたのでよかったと思います」

まだ中学1年生だった2014年3月のドイツオープン、同学年の平野美宇と組んだダブルスでワールドツアー史上最年少優勝を果たした時は、賞金額を聞かされて驚く無邪気な表情が話題になった。



その記憶もいまだ鮮やかな1年後、同じ大会で伊藤はシングルスの優勝者となる。ドイツオープンは、ワールドツアーの中でも最も格付けの高いスーパーシリーズの一つだ。ランキング上位者が集まるこの大会で次々と快挙を成し遂げる中学生が、いかにスペシャルな才能の持ち主かが分かるだろう。


母の“卓球中継胎教”


この時の戦いぶりが伊藤をリオの代表入りに大きく近づけることになるのだが、その成長の過程についてはNumber894号掲載の記事をぜひともお読みいただきたい。



今回の取材では、伊藤の母・美乃りのインタビューも行われた。娘が3歳になる前から始まったという卓球の猛特訓。その真相を確かめたかったのだが、母の発する言葉は取材陣の想像をはるかに超えていた。


「私は卓球が大好きで、社会人でも選手としてクラブチームに所属していましたし、テレビで試合を見るのも好きだったんです。妊娠期間中、美誠はお腹にいて映像を見れないので、私が見たままを実況中継して聞かせていました。口元からお腹に届くように曲がった筒を手づくりで用意して……」


ただその頃は、娘を卓球選手にしたかったわけではないという。自分が好きなものを伝えたい、同じ空間で感じてほしい。“卓球中継胎教”は、そんな気持ちの表れだった。


「素晴らしい子育てをされましたね」


しかしラケットを握るようになった娘の姿に、母は衝撃を受け、自身の選手生活をなげうってでも指導に全てを捧げる覚悟をする。卓球場では心を鬼にして厳しく接し、小学生の伊藤を連れてメンタルを専門とする大学教授に診てもらいにいったこともある。




「この子、どうでしょうかと話をしていたら、先生の目の前で美誠が爆睡し始めたんですよ。すると先生が言ったんです。『お母さん、もう答えは出てますよ』って」


大学教授は朗らかにこう続けたという。


「メンタルトレーニングが必要なのはお母さんです。なぜなら僕にアポをとって会いに来た人は今までいませんから。この子? 必要ありませんよ。寝るということは『私はあなたを必要としていません』ってことですから。子ども心にそれが分かっているんです。お母さん、素晴らしい子育てをされましたね」


美乃りのインタビューの間に写真撮影を終えた伊藤は、少し退屈そうにベンチで待っていた。そして気がつくと、ベンチに横になり、深い眠りについていた。


「もう十分でしょ」


規格外のメンタルをもつ15歳の心の声が聞こえた気がした。



Numberさんより
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伊藤美誠ちゃん リンク




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