来たるべき時
世界は平等になる。つまり「平等な貧困社会」が到来する
「富が1%の富裕層に集まるのは間違いだ」と、大統領候補のバーニー・サンダースは叫ぶと、若者が熱狂的に「イエス、その通りだ!」と呼応する。
「アメリカを変える唯一の方法は、ウォール街と大企業に立ち向かう勇気を持つことだ」と、バーニー・サンダースと訴えると、人々の同意の声が地割れのように湧き上がる。
「我々は富裕層やウォール街やアメリカ株式会社の利益を代表していない。彼らの金なんかいらない」と、バーニー・サンダースが言うと、聴衆は総立ちになって拍手喝采を送る。
バーニー・サンダースは、アメリカの資本主義が間違っていると叫び、多国籍企業が支配する「アメリカ株式会社」は国民を搾取していると説明し、ウォール街のやっていることは搾取だと断言する。
バーニー・サンダースがそのように演説すればするほど、若者たちは74歳の高齢の政治家の支持に回り、ヒラリー・クリントンの存在が霞んでいく。
自らを社会主義と公言してはばからないバーニー・サンダースの「叫び」に呼応するのはアメリカの貧困層であると言われているのだが、この貧困層は今やアメリカの大多数を占めている「多数派」である。
貧困から抜け出せない人々にとって社会は敵だ
貧困層は米商務省の2010年の統計でも約4620万だが、2016年に入った今、この貧困層の割合は拡大し、5000万人以上に増えているのではないかとも言われている。
さらに言えば、働いても働いても豊かになれないワーキングプアは、アメリカで1億5千万人もいると言われている。人口の半分がそうなのだ。
特に黒人住民の貧困がひどい。黒人住民は、一部のスポーツ選手やセレブ歌手以外は、その多くが貧困層に入っている。格差問題はすなわちそのまま人種問題につながっていた。
彼らは低所得にあえぎ、生活苦に苦しんでいる。そのため、人種差別の抗議デモが起きると、最後には必ず略奪と放火が同時に起きる。
貧困が蔓延すればするほど、こうした社会不安は大きくなる。
何かきっかけがあると、それを起爆剤として一瞬にして押さえきれない規模の暴動となっていく。貧困から抜け出せない彼らにとって、社会は「敵」となっていた。
今、アメリカで頻繁に起きている暴動は、そういった種類の暴動であり、その背景には「貧困」と「格差」の問題が大きく横たわっている。
黒人大統領を生み出したアメリカは人種差別が克服されたという認識が世界にはある。2009年には、そのような論調で溢れていた。しかし、それは幻想だった。
経済格差と貧困問題が深刻化して、黒人やヒスパニック層が深刻な貧困に転がり落ちていき、それに続いて今や白人たちも貧困とは無縁でなくなっていった。
だから、こうした社会で富と暴利を貪っているウォール街や多国籍企業や富裕層に対する怒りは抑えきれないものになっている。バーニー・サンダース旋風は、そうした怒りのひとつの形でもある。
バーニー・サンダースは、アメリカの資本主義が間違っていると叫び、多国籍企業が支配する「アメリカ株式会社」は国民を搾取していると説明し、ウォール街のやっていることは搾取だと断言する。
融崩壊以後、富裕層だけが「焼け太り」した理由
2008年9月15日に金融界を激震させたリーマン・ショックはアメリカの富裕層を直撃した。これによって、富裕層も資産を吹き飛ばして貧しくなるかと思われた。
しかし、アメリカ政府は「大きすぎて潰せない」という理屈で金融業界を救済し、さらに崩落する株式市場をテコ入れするためにFRB(連邦準備制度理事会)は前人未踏の量的緩和を行った。
アメリカは大量のドルを発行し、そのドルは巨大な津波となって株式市場になだれ込んでいたのである。
これによってアメリカの株式市場は急回復した。世界金融崩壊は間一髪で避けられ、結果的に私たちは資本主義の崩壊を見ないで済んだ。
ここで注意しなければならないのは、急回復した株式市場の恩恵を受けたのは「富裕層だけ」であるということだ。富裕層は資産が回復しただけではなく、その多くが「焼け太り」になっている。
富裕層だけが資産を急激に回復させたのは、「株式資産を持っていたのは富裕層だけ」だったからだ。
日々の食費すらも事欠く貧困層が、株式資産を持っているはずがない。だから、株式市場が回復したところで、貧困層には何の関係もなかった。
さらに、富裕層が「焼け太り」したのは、2008年9月15日以降、半年以上にも及ぶ株式市場の大崩落の中で、彼らは安くなった株式を大量に買い漁っていたからである。
2009年後半から株式市場が値を戻す中で、それは大きな利益を生み出すことになった。
2013年以降、ニューヨーク株式市場はさらに上昇していき、リーマンショックの水準を超えた。スーパーリッチが、さらにスーパーリッチになっていったのだ。
貧困と格差は、今や全世界を覆い尽くす「伝染病」
貧困問題、経済格差は、グローバル経済の中でどんどん広がっているのだが、この問題に手を付けると叫んでいるのが、バーニー・サンダースである。
しかし、バーニー・サンダースが勝てるかどうかはまだ誰も分からない。もし勝てなければ、アメリカの富裕層はヒラリー・クリントンと組んで、現在の弱肉強食の資本主義を維持する方向で政治を行うだろう。
これは99%の層をより貧困にしておくということであり、「みんな貧困である」という意味での平等社会になるということでもある。是正どころか、逆に格差の極限化に向かっていく。
アメリカの富裕層は、100億円どころか1000億円、1兆円を超える富裕層もごろごろしている。ビル・ゲイツに至ってはすでに10兆円ほどの資産になっているとも言われている。
たったひとりの資産としては想像を絶する額である。10兆円と言わず、仮に100億円の資産であっても、その資産を年利3%で回しただけでも3億円が何もしなくても転がり込む。
アメリカの貧困層は200万円の年収を稼ぐのに苦労しているが、何もしないで3億円が転がり込んで来る富裕層と、200万円も稼げない貧困層が数年経ったら、その格差はさらに開いていることは誰でも理解できるはずだ。
「富める者はますます富み、貧しい者はますます貧しくなる」という社会が到来しているのである。
こういった社会の中では、白人層であっても貧困層に落ちるともはや二度と浮かび上がれない可能性が高まるので、皮肉なことに貧困問題は人種問題ではなくなっていく。
99%が極貧に落ちるということは、「平等な貧困社会」が到来するということでもある。これが、真っ先にグローバル化を実現したアメリカ社会の姿だった。
グローバル化を取り入れた社会は、どこの国でもこれと同じになる。ユーロ圏も、中国も、グローバル社会にあるのだから例外ではない。日本もそうだ。
このままでいくと、「みんな貧困である」という意味での平等社会になる。是正どころか、逆に格差の極限化に向かっていく。
ブラックアジアさんより